
昔から、「敷居を踏んではいけない」とか「敷居は跨ぐもの」と言われていましたよね。畳のへりを踏んで歩いていると躾けされていないなんて言われたりもしました。NHKの連ドラで似たようなシーンが登場していたので気になったのですが、どうしてダメなのかを知らない人が多いのではないでしょうか?
このドラマでは、言われている方は「踏んではいけない理由」が分かっていなさそうだったのですが・・・想像ですが、厳しく躾けている方も「踏んではいけない理由」など分からずに怒っていたように感じられました。ただ単に・・・「躾」のためなんだと思います。
確かに、ドラマの中のような昔の時代であれば「敷居を踏んではいけない」「畳のへりを踏んではいけない」という躾は理にかなっていたのですが・・・このドラマを見て、現代の親が子供に同じように躾けようとするならば、やめておいた方が良いと思います。
敷居を踏んではいけない理由
フスマや障子戸などは部屋を仕切る木材のレールに沿って開け閉めするのですが・・・大昔の家は構造材に直接ミゾを彫って敷居にしていたのです。したがって、敷居を長期間に渡って踏み続けていると磨り減ってレールのミゾが浅くなったり歪みが出たりするわけですが、敷居イコール構造材なものですから修復が大変なのです。当然、費用も莫大になります。(部屋を仕切る敷居だけでなく、玄関の敷居も同じ)
そんな事から・・・昔は建物を大切にするという意味を込めて「敷居を踏んではいけない」「敷居は跨いで歩くものです」と言われるようになったのですね。現代の住宅では構造材に直接に敷居を付けるなんてことも無い上に、レールもプラスチック製などになっているのでいつでも簡単に交換が可能となっています。別に踏んでもかまわないわけです。
また、昔の家にはベタ基礎どころかコンクリート製の基礎などもなかったわけです。ただ大きめの石の上に柱を建てていただけなので家は簡単に歪んだり傾いたりしたわけです。それなのに、構造材である敷居に常に人間の体重という荷重が掛かっていたのでは歪みがより大きくなりやすかったわけですね。
だからこそ・・・「敷居は踏んではだめだ」と言われるようになったのです。現在の家はコンクリート製ベタ基礎の上に高強度な集成材で建てられている上に大量の鋼製束で支えられているので、人間の体重が掛かったくらいでは歪みません。どれだけでも安心して敷居を踏んでいただきたいと思います。
畳のへりを踏んではいけない理由
大昔の時代の「畳」というものは大変に高価で貴重な品だったわけです。特に畳のヘリには、その家の家紋をあしらった装飾が施されていたので・・・特にコストが掛かっていたわけですね。
この説明だけも「畳のへりを踏んではいけない理由」が分かっていただけたと思いますが・・・畳を修復するにも「へり」を直すことに一番コストが掛かっていたのです。そんな畳のへりを踏んでいたら、当然ですが早く傷むことになりますよね?
つまり・・・コストの掛かる畳のへりを守るために「畳のへりを踏んではいけない、跨いで歩くものだ」と言われるようになったのです。
しかし現在では畳など貴重品でもなんでもないわけ傷んでしまえば交換してしまうものですし、仮に修復するにしても工場でまとめて全体を修理しますので、畳のへりだけピカピカでも関係ないわけですね。畳の中央部が傷めば全修復か交換になるのが一般的ですのでね。
そういう意味では・・・畳のへりを踏んで歩いたところで目くじらを立てて怒ったり叱ったりする必要などないのです。安心して踏んで歩いて下さい、どうせ交換するだけですし。(ただし、文化財級の高級畳は別です。)
神や家の主人の頭に例える理由
ただ「敷居や畳のへりを踏むな」と言っても・・・普通は気をつけずに踏んでしまうものですよね?特に子供の場合は、「踏むな!」と親が言えば言うほどワザと踏んじゃったりしちゃうものです。
そこで昔の人は「躾」や「礼儀作法」として教えていたわけですが、神様や結界の話しなどを持ちだしてまで踏まないようにさせていたのです。だから親からの躾として「神様の頭を踏むのと同じ」とか「その家の家主の頭を踏むのと同じ」と言われて育った人も多いのではないでしょうか?
私に言わせれば・・・こんな理由で躾けるのは、「ミミズにオシ○コをかけるとチ◯チンが腫れる」というのと同レベルの躾だということです。昔の家や重要文化財ならばともかく、現代の住宅においては必要のない躾だと思います。
躾も厳しすぎると・・・
そうは言ってもマナーという側面もありますので、子供に「~を踏んではいけない」と躾けても悪くはないと思います。しかし、厳しく叱ったり怒ったりしてまで踏ませないようにする必要など全く無いわけですね。
考えてもみて下さい、ヘリを踏んではいけないような面倒くさい畳など現代の住宅では使われなくなってきているのです。叱って怒って厳しく躾けたとしても、そもそも「畳」という存在が世の中から消えていっているのですから躾の意味も無くなっていくわけですね。子供にしたら辛い記憶が残るだけですね。
敷居や畳のへりは跨ぐどころか存在しなくなった
ちなみに、私の家では「敷居を踏むな」という躾も全く意味のないものになっています。私の家では廊下やトイレの床も含めて全面無垢材フローリングになっているのですが、室内の戸や収納扉は全て吊り下げ式になっているのです・・・つまり、室内の床に「敷居(レールも含む)」と呼べるものは全く無い状態なのです。(私の家は全館冷暖房で廊下と部屋の継ぎ目も無い)
そもそも現代住宅では床も含めて敷居の部分が歪むという事がほとんどありません。なぜならば、コンクリート製のベタ基礎の上に等間隔に並べた金属製の鋼製束やプラスチック製のプラ束が床の全面を均等に支えているからなんですね。どこかを集中して踏んだからどこかが歪んだとか凹んだということも発生しないのです。
玄関の敷居でも同様です。現代の住宅では、昔のように木材が玄関ドアの下にあるわけではありません。コンクリート土間と玄関ポーチは全てコンクリートか、その仕上げ材で覆われているはずです。外と室内の境目を踏もうが踏ままいが・・・そもそも玄関の足元に境界そのものが無くなっているのです。
そういう意味においては・・・現代住宅にとって必要がなくなった物(敷居や畳)に対して厳しく躾ける事は滑稽なことだと思います。だって・・・存在すらしなくなってきているのですからね。